2010/09/23 13:02  サンド島空軍基地 


空は青い。
ぼんやりと眺めていると、少し長い前髪が風に弄ばれた。
温かい風だ。

オーシア大陸とベルーサ大陸の間にある太平洋のなかに浮かぶ半島がサンド島である。
珊瑚礁の上に浮かぶこの島を一周するのに2時間とちょっとしかかからないほどの広さではあるが、
オシーア領最西端に位置する空軍基地だ。

「ティル!!」

下のほうから名前を呼ばれた。
コンテナの上にいた俺は体を起こし下をみる。
一人の男と犬がこちらを見上げていた。
チョッパーとその飼い犬のカークだ。

チョッパーは以前からの親友であり悪友。
五月蝿い奴ではあるが、一緒にいて楽しい。

その飼い犬のカークは、ラブラドール・レトリバーのブラック。
飼い主に似ないで頭がいい。(こんなことチョッパーに言ったらどつかれそうだ…)

チョッパーは息を切らして、興奮しているようだった。

「ティル!早く降りて来い!!」
「なんだよ、急に。今日俺らの飛行の番じゃないだろ?」

俺ら、練習生であるひよっこはローテーションで練習飛行をさせられている。
今日の俺らは非番だ。

「ちがうって!やばいことがおきたんだよ!!」
「なに?あのカメラマンが吐いた?」

今日、『万年大尉』と称されるバートレット大尉をインタビューするために一人のフリーカメラマンがやってきた。
無精ひげで、体の線は太くなかった。
民間人なら確実に失神するという戦闘機に無理やり(?)乗せられていたのを見た。
ご愁傷様だ。

「いいから、はやく!!」

急かすチョッパーに促され、俺はコンテナから飛び降りた。



「そういえば、さっき凄い音がしてたな…。」

滑走路へと向かう道を歩きながら呟く。
さっき滑走路の方角で何かがぶつかったような大きい音が聞こえた。

「そう!それだよ!!なんかオーシアに国籍不明機が侵入してよ、練習生が一人と
 教官も二人だけが帰ってきたんだ、そのうち教官の一人が着陸時にクラッシュしちまってよぉ」
「ふーん。」

教官のくせに着陸時にクラッシュとはな…。

「練習生は?誰が帰ってきたんだ?」
「えっと…ナガセ、だったかな。」
「ナガセか。」

今、サンド島にいる戦闘機乗りの中で唯一の女であるケイ・ナガセ。
冷静沈着で操縦も鋭い。


すでに滑走路は人でいっぱいだった。
サンド島にいる殆どの人がいるのではないだろうか。

「おい、ひよっこども!一度隊舎にはいれ!!」

バートレット大尉が宿舎の前で叫んでいた。



一つの部屋に新米たちが集められた。
一番前に向かい合うよう座ったバートレット大尉。

「文句の山ほどあるだろうが、人手も足りん。
 明日からはお前らもスクランブル配置だ。ナガセ。」

全員の視線が一番前に座るナガセに向けられた。

「お前は俺の2番機だ。目をつけてねぇと何しでかすかわからん。」



「なぁなぁ、俺らも任務で飛ぶってことだよな。」

解散してからチョッパーが言った。

「まぁ、そういうことになるんじゃね?」
「これで、俺の活躍できるってわけだ!!」

ガッツポーズをするチョッパーに苦笑いがもれた。




次の日。
朝食のあとだらだらと駄弁っていた。
食堂には俺とチョッパーしかいない。

「あなたたち。」

声のほうを見るとナガセが立っていた。

「隊長が呼んでる。司令室に来て。」

俺達は顔を見合わせた。



司令室にはすでにバートレット大尉とナガセ、そして―。

「さっさと、座りたまえ。」
「今から作戦のブリーフィングを行う。緊急事態だ。」

太って偉そうなやつがオーソン・ペロー中佐。サンド島基地司令である。
人望は無い。(俺も大嫌いだ)なにかと文句をつけては嫌味をいうのだ。

そして、その後ろにいるのがアレン・C・ハミルトン。副指令。
上のデブとは違って周囲の配慮もできる優秀な人物だ。

「オーシア連邦領空に再び国籍不明機が侵入した。」

俺とチョッパーは息を呑んだ。

「高々度を行く戦闘偵察機であることは確認されている。
 警告を聞かなかったため防衛隊がSAMを発射したが撃墜には至っていない。
 正体を明かすため、地上へ強制着陸させるのが今回の任務だ。」

すらすらと任務内容を話すハミルトン。

「11時前には離陸する。それまで準備しておけ。」


「簡単そうな任務だなぁ。」

チョッパーはつまらなそうに言った。

「最初はこんなもんだろ。」

早く準備しようぜ。とチョッパーを促す。

「ちょっとまて、お前ら。」

バートレット大尉に呼び止められた。
差し出されたのは2本の細長い紙。
先のほうはバーテレット大尉の手のひらの中に隠されている

「…なんです?」

にやりと大尉は笑った。

「今日からお前らは俺の編隊に入る。」
「あー、よろしくお願いします。隊長。」

あからさまに嫌そうな返事をするチョッパー。
大尉は笑みを崩さない。

「ナガセは2番機だと決まってるが、お前らは決めてない。」
「…隊長が決めるのではないんですか?」
「あぁ、そうだが、面倒だからな…。」

おいおいと心の中で突っ込みを入れる。

「そこでだ、コレを引け。」

クジだ。この紙は。

「つまりは、運任せってことですか?sir?」
「そうだ、物分りがいいな。」




俺達は同時にクジを引いた。







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