2010/09/27 16:13   サンド島 司令室

「隊長の行動に不審な点はなかったか?」

耳にタコができるくらい言われた科白。
司令室に呼ばれ、問われるのはそれだけ。


隊長は戻ってこなかった。
海上ヘリが到着したころには姿がなく、
ただ、遠ざかる情報船だけが見えていただけだったらしい。


ちらりと隣に立つナガセを窺う。
彼女は白い顔をさらに青白くさせていて、唇を噛んでいた。
見てはいないが、拳を固く握りしめているだろう。

「どうだ?君たち…心当たりはないのか?」

ブタめ…。
俺は心の中で悪態を吐いた。
入口のすぐ脇に立つハミルトンは無表情だ。

「庇い立てはいかんぞ。君たちの立場も危うくなる。」

いやしい笑みを浮かべるペロー中佐。
あぁ、殴りたい。

固く握りしめた拳を振り上げる衝動を俺は抑え続けた。








「ナガセ!」

やっと豚野郎のイヤミから解放され俺たちは司令室を後にした。
さっさと歩いていくナガセの背を追う。

「なに?」
「あ…気にすんなよ、あいつのことなんか。」

思うように言葉が見つからない。
変に助言すれば彼女を傷つけてしまいそうな気がした。
頭の中で必死に言葉を探す。
こんな時、俺の頭のボキャブラリーのなさにいらつく。

「気にしてないわ、別に…。」

そういうナガセの声には棘があった。

「あと…隊長は大丈夫だって!きっと戻ってくるさ
 あの人、結構しぶといしさ…そのうちひょっこり戻ってきて…」
「そんな保証…どこにあるの?」

キツイ科白。
ナガセは俺を睨んだ。

「私が油断してたから…あの時」
「…」
「気を付けていれば…隊長が墜ちることはなかった…こんなことには…」

ナガセの肩は震えていた。
一瞬、泣いてると思い狼狽した。
行くあてもない手が宙をかく。

「…ごめんなさい。」

なぜかナガセは俺に謝罪の言葉を述べた。

「あなたに当たっても意味がないのに…
 あなたなりに私を元気づけようとしてくれてるのよね。」
「あ、いや。」
「ありがとう。」

微笑を浮かべナガセは言った。
顔が熱くなるのがわかる。
きっと、俺は今顔が赤いんだ。

「それと、急に貴方に隊長の任を押し付けて悪かったわ。」
「別に大丈夫だよ。何とかなったし。俺、ちゃんと隊長らしくできてたか?」

あの時はいろいろいっぱいいっぱいであまり憶えていない。

「えぇ、頼もしかった。」



ナガセは少し休みたいと言って、部屋に戻って行った。
俺はその背を見送った。


「初々しぃねぇ…。」

背後からの言葉に俺はぎくりと肩を震わせた。
見ればチョッパーが壁に背を預け立っている。
こいつ、盗み聞きしてやがったな―。

「ほっとけ!!」
「顔赤くしちゃって。」

プスーっと笑うチョッパー。
殴ってやろうか、
拳を上げればチョッパーは慌てて弁解する。

「問答無用!!」

そのまま拳をチョッパーの腹に食らわせてやった。







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