2010/09/24 11:01  ランダース岬沖  



≪こちら、空中完成機サンダーヘッド 強制着陸させよ ウォードック各機、発砲は禁ずる いいな≫




空は、憎いほど青い。そして、下にある海も。
どこまでも青く、果てしない。

『…ん、どん尻。おい、聞こえてるかブービー。ちゃんとついて来てるか、最後尾!!』
「こちら、4番機。大声出さなくても、はっきり聞こえますよ。」
『返事だけは一人前だな。離されるな。』
「りょーかい。」

はぁ、と小さくため息を吐く。
そんな俺を励ますのか、馬鹿にしているのか、空は青々としてその上に太陽が燦々と輝いている。
のんきなもんだ、と八つ当たりをしても意味はない。

『やれやれ、俺ぁ今回クジに勝ってよかったぜ。』

チョッパーの脳天気な声がイヤにムカついた。
…この任務が終わったら一発殴ってやろうか?

『黙れ、アルヴィン・H・ダヴェンポート少尉。お前も何かあだ名だ呼ばれたいか?』
『自分が呼ばれるならチョッパーであります。それ以外は応答しないかもしれないであります。』

ちゃらかすチョッパーに隊長は鼻で笑った。

『実にお前らしい呼び名だ。だが俺は心の中ではもっと別の名でよぶ、いいな。』
『勘弁してくれよ!』

嘆くチョッパー。まぁ、同情はしない。

青い空にぽつんと黒い点が見えた。
あいつか、国籍不明機ってのは…。

『お客さんだ、いくぞ。』

隊長の機体が右へと旋回した。
俺達もその後に続く。

国籍不明機の後ろについた。

『許可があるまで発砲は禁止だ、いいか?』
「了解。」
煙を上げるもなお飛び続けているそれはなんだか哀れだ。

『おしゃべり小僧チョッパー!』
『う、俺のあだ名はそれかい。』
「お似合いじゃねぇか。」

素直に感想を述べるとチョッパーから睨まれた気がした。(見えないからわからないが)

『おまえは、漫談の才能がある。降伏勧告をやってくれねぇか?』
『どうか、ごじぶんで。』
『おれは、人見知りの癖があってなぁ』

ほんとかよ、という突っ込みは心の中にしまった。

『ちぇ、あー、あー。国籍不明機に告ぐ、我々の誘導に従って進路を取れ。』
『いいぞ。』
『最寄の飛行場へ誘導する。了解したらキアダウンしろ。』

レーダーに動きがあった。
確認する前に上のサンダーヘッドが叫んだ。

≪警報!さらに数機の国籍不明機接近!方位280、高度6000!  高速の小型機4期!命令があるまで発砲は禁ずる!≫

レーダーに4機の機影が映される。

『海を越えて偵察機の帰還援護に来るとは殊勝な奴らだ。それでこそ戦闘機だぜ。』

余裕そうに隊長は言った。

『それ、方位280!ヘッドオン。』


『いいか、俺がいいと言うまで発砲はするな。』
「了解。」
『エッジ、了解。』
『チョッパー了解!』


遠くの青に浮かぶ4っつの点。
見る見るうちに形になっていく。
F-5E。「タイガーU」だ。
操縦桿を握りなおし、シートに座りなおす。

機体のすぐ横を何かが走った。
少し遅れて音が聞こえた。

『撃ってきたぞ!』

それと同時にチョッパーが叫んだ。

≪命令があるまで発砲は禁ずる!≫

サンダーヘッドの命令に舌を打った。

「ばかやろう!向こうは実弾だぜ!!」
『しゃべってねぇで、降りかかる火の粉を払え。』

前にいる隊長機の機関砲がうなった。

≪こちら、サンダーヘッド。 バートレット大尉、それは命令違反だ!≫

『阿呆!これ以上部下を殺されてたまるか!!』
『エッジ、交戦。』

ナガセの冷静な声。
この状況下においても冷静さがかけないのは流石だ。

『ブービー、全機落とすぞ。』
「了解!」

隊長機が上へ上昇した。
俺は、操縦桿を前に倒す。
上に敵機が飛んでいった。
凄い早さだ。

海を嘗めるように飛ぶ。
何度か後方を振り向くが敵機はいない。

ゆっくりと息を深く吐いた。

海面が跳ねる。
敵機が上から撃ってきたのだ。

順番に油圧、燃料メーターをチェック。
スロットルを前に倒し、加速させる。
一気に操縦桿を引いて急上昇。
敵機が負けじと後ろについて来た。
5000フィートまで上がったところでもう一度後方を確認した。
相変わらず噛付いている敵機。

「…しつこい奴だな…。」

スロットルを一気に引いた。
失速。
出力を失った機体は下へ傾く。
一瞬の浮遊感。内臓が動いたような感覚が襲った。
すぐに機体を立て直す。

不意を突かれた敵機は俺の前に飛び出していった。
それが、狙いだ。

「もーらい。」

機銃のロックをはずす。
小さい振動が起こる。
うなる機関砲。

目の前の機体が火を吹いて爆発した。

「よし!」
『ばかやろう!ブービー!!飛び方考えろ!!』

大声で飛んでくる隊長の罵声。
耳が痛い。

「す、すいません。」

≪ブービーだかなんだか知らんが、こっちは規定どうりブレイズと呼ぶ。≫

冷静なサンダーヘッドの声。

『了解。俺もそれがいい。』

周りを見渡す。
ナガセが1機撃墜した。
見事なフライトだ。

『ぐぉわああああああ!!』

チョッパーの叫び。
だが、チョッパーの機体が見えない。

上を見上げる。
いた。
ミサイルをぶち込まれそうになっている。

「あの、ばか…。」

操縦桿を引く。
敵機がチョッパーに集中しすぎてか、すんなりと尻に喰らいつけた。
スロットルを前に倒し、近づく。
レーダーで敵機を補足させる。
ロックオン。

「チョッパー、上昇しろ!」
『お、おぅ!』

ミサイルを発射させる。
吸い込まれるように敵機に向かう。

ドォンという爆発音。
クリティカルヒット!

『よし、撃墜確認。俺が手製のメダルをくれてやる。』

隊長が言った。

『どうも。』

あと、1機。

敵影を確認する前に8時の方向で爆発音。

『撃墜だ。』

余裕そうな隊長の声。

≪全ての国籍不明機の撃墜を確認。≫

『こちら隊長機、俺の声が聞こえるか?』
『こちらチョッパー、大丈夫です。』
『エッジ、良好です。』
「ブレイズ、大丈夫ですよ。」
『みんな、生きてるな。よーし、いい子ちゃんたちだ。4番機ちゃんとついてきてるな?』
「大丈夫ですって。」
『よし、全員生還の記念に今後偏隊内のどこにいてもお前のことはブービーだからな。』

「は?ちょ、まっ…」

『いいな、わかったな!』



ふざけんな!!という俺の叫びは隊長には届かなかった。


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