「私に宛がわれた部屋、または牢獄。」
私は部屋の隅にセットしたカメラに向かって両手を広げた。
あの事件から数日、私はこの島から出られない身となった。
ハミルトン大尉が私の部屋にやってきた。
このあいだ、私のカメラをここの司令官(ティルたちは豚などと呼んでいる。)から取り戻してくれた。
それからというもの何かと私のところに来てはカメラの話しで花が咲いた。
彼は神妙そうな表情でいま、電話している。
「…わかりました。…はい。…はい。」
話の相手は分からない。
ハミルトン大尉は静かに受話器を置き、考えるようにそれを指の先で何度か叩いた。
「たった今、貴方を閉じ込めておく理由がなくなったよ。」
「え?」
どういうことです?
とハミルトン大尉に問いかける。
「ユークトバニアが宣戦布告した。」
ハミルトン大尉は踵を返した。
「宣戦同時攻撃だ。セント・ヒューレット軍港が空襲を受けている。」
私が質問する暇もないほど、彼は急いで部屋を出て行った。
外から、戦闘機のエンジン音が響く。
ブラインドをかき分け外を見れば、彼らが空へと飛び立った。
「おやじさん!」
滑走路まで走って行けば、おやじさんが空を見上げていた。
彼のそばにはカークもいた。
「やぁ、ジュネット。解放されたようだね。」
呑気なおやじさんの科白に、たった今から戦争が起こるなんて思いもつかない。
実際、私もぴんと来ない。
「彼らは?」
「飛び立ったよ。セント・ヒューレット軍港にね。」
私も同じように空を見上げた。
晴れた空はいつもと変わらない。
「おやじさん!!」
まだ顔に幼さの残る青年がこちらに走ってきた。
格好は搭乗員が着用する耐Gスーツを着ていた、彼もパイロットだろうか。
「やぁ、グリム君。どうした?」
グリムと呼ばれた青年は息を切らせて、走り寄った。
カークが嬉しそうに尻尾を振る。
「せ、宣戦布告って本当ですか?」
「…あぁ。」
グリム君は不安そうにおやじさんを見る。
「大丈夫だ。すぐに終わるさ。」
おやじさんは笑顔で言った。
彼もそれに救われたのかかすかに笑みを浮かべた。