やばいものを見ちまった…。
俺は後悔した。
吐き気を必死に耐えながら、まっすぐ見ようと努力する。
だが、浮かんでくるのはさっきの光景。

波間に浮かぶ、人、人、人。

あんなに、たくさんの…


やめてくれ

もう、たくさんだ―。












「ブービー、あれを見たか?」
『あぁ。』

ティルの声は今までにないほど落ち込んでいるようだ。
なるべく、波間を見ないようにケストレルを見る。

「空母が、海に出る。
 頼むぜだれかよぉ。あいつを無事に逃がしてやってくれ!」
『チョッパー、俺たちがあいつを逃がすんだ。』

あと少しだ、がんばろう。
そう言ったティルの声に肩を叩かれた気がした。

≪ブレイズ、こちらサンダーヘッド 作戦内容は明らかか?≫

『あぁ、大丈夫だ。』

≪了解、直ちに行動に移れ。≫

レーダーには幾つもの敵機影。
中には戦艦もある。

『チョッパー、エッジ。大丈夫か?』
『平気、いつでも指示を。』

『チョッパーは?』

一度大きく息を吐いた。
こんなところでくよくよしてられっか。
なにより、俺の性格には合わない。

「大丈夫だ!指示をしてくれ隊長。」

<封鎖線までの距離を確認した、あと4マイル>
<遠くから空母を狙ってる敵機がどこかにいるはずだ、
 長距離射程の対艦ミサイルに気をつけろ>

『チョッパー、お前は下の敵艦を中心に、ナガセは俺と上空の敵機に回れ、散開!』

ティルの指示通り、敵艦を狙う。
特殊兵装UGBに切り替える。
戦艦は戦闘機と違って止まっているようだ。

上空から爆発音が聞こえた。

<ブレイズが敵機をやった!>

デルタ隊の誰かが叫んだ。
さすが、ティルだ!
俺も負けてられねぇっ。

タイミングを見計らい、UGBを投下。
爆発音。
見れば敵艦が沈んでいく。

『ナイスキル!』

ティルの声。
なんだかんだで、奴は俺たちを見てる。
隊長の素質があるぜ。

<こちらケストレル 間もなく封鎖線に突入。総員全力を尽くせ>

『こちらソーズマン。敵の懐に飛び込む母艦を援護する』

ソーズマンが戻ってきたようだ。
東セクターはもう大丈夫なのだろうな…。

<スノー大尉 上はまかせたよ>

『了解です。アンダーセン艦長!!』

こっからが踏ん張りどころか…。

一度大きく深呼吸をして、操縦桿を握りなおす。
レーダーには敵戦艦が映っている。

「大丈夫、まだまだやれるっ!!」

そう、自分に言い聞かせスロットルを倒した。
一度高く上がり敵戦艦の狙いを定める。

操縦桿を倒し、緩やかに下降。
タイミングを見計らい、敵戦艦上空にUGBを投下させる。

そういや、ティルがいうには敵機をやったかやってないかを確認するのはダメだって言ってたな…。
言うとおり次の敵機を狙う。

あちこちで聞こえる爆音。
飛び交う無線。

気を緩ませることさえできない状況。


『ウォードック、無事か?』

時折。安否を確認するティルの声。
なんて答えたかなんて覚えてもいない。




気づけば、ケストレルは封鎖線を突破していた。


「突破しやがった!!ヘビーなサーフボードだぜぇ!!」

無線には幾人からの歓声が沸き起こっていた。
ここまでくればもう大丈夫だ!!

『なんとかなったな…。』

ティルは安心したような声で言った。
あいつが仕切ったんだ!
たいしたもんだぜ。

「よぉ、ブービー。隊長になった気分はどうだよ!」
『…疲れた。』
「バックアップは俺たちなんだぜ!?安心しろよ」

そういえばティルは曖昧な返事を返す。

「そのうち慣れるから心配なさんなって!!」 『そのうちってな…今回は異例だろ?帰ればきっとバートレット大尉に隊長の任は返されるさ。』

もうごめんだという風に答えるティル。

<こちら空母ケストレル艦長。本艦隊は無事に安全海域に脱出成功した。
 海、そして空の勇士たちに感謝する。>


あらためて感謝の言葉を向けられて何となくむず痒い。
それを隠すように俺は声に出して俺たちの隊の機体を数える。
何度数えても3だ。
俺たちはあの隊長なしで生き残れたんだ。

「隊長が海に上がってきたら自慢してやろうぜ!」

ティルの隊長っぷりと俺たちの活躍を!







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