2010/09/27 12:55   サンド島
俺たちは一旦サンド島基地に戻った。
機体の燃料、弾薬を補給しすぐに大空へと飛び立つ。

補給中にナガセを盗み見した。
青白い顔で、じっと海を見ている。

「ナガ…。」
「ウォードッグ隊!すぐにセントヒューレットに向かえ!!」

ナガセに声をかけようとしたが、諦めた。
チョッパーが文句を言いながら機体に乗り込む。

俺も、仕方なくヘルメットを被った。




≪緊急事態により、この時間で状況説明を行う≫

セントヒューレットへ向かう中、サンダーヘッドが言った。
彼の声から、緊迫している空気が伝わる。

≪ユークトバニア航空部隊による奇襲攻撃を受けていると、セントヒューレット軍港から入電があった。
現在、港全体は極度の混乱状態にある。港にはオーシア第3艦隊の艦船が停泊中であり、敵の攻撃にさらされている。
セント・ヒューレット軍港に急行し、艦船の湾外への脱出を支援せよ。なお、第3艦隊の中核を成す空母ケストレルだけは必ず守りぬけ。いいな≫

「了解。」

≪バートレット大尉に代わり、エッジ 編隊の指揮を執れ≫

サンダーヘッドはナガセを指名した。
彼女なら、きっと的確な指示がとれるだろうと踏んだんだろう。
間違っていない選択だ。

『指揮ならブレイズが』
「お、おれ!!?」

ナガセの口から出たことは、サンダーヘッドへの否定と、俺の指名。
予想だにしなかった事だけに、俺は情けない声を上げた。

≪ナガセ少尉 指示に従え≫

怒りの含んだサンダーヘッドの声。
しかし、ナガセは痛くもかゆくもない様子だ。

『ブレイズ、前に立って。私は後ろを守る。
 もう一番機を墜とさせはしない…。』

ナガセはさっきのことをよほどに悔いているようで、
声から彼女の意志が固いことがわかった。


『うろうろしてるな!ここは戦場だぞ!!
 そこらじゅうにいる敵に喰われるぞ!!!』

後ろからすごいスピードで駆け抜けた戦闘機。
俺と同時に聞こえる怒鳴り声に驚く。

『こちらソーズマン スノー大尉だ
 次の敵編隊を迎撃する 位置を知らせろ』

だんだんとセントヒューレット軍港が見えてきた。
煙が上がっているのが解った。
ごくりと生唾を飲んだ。

<こちら対空間艦エクスキャリバー
 前方をふさぐ艦 離れてくれ! SPYレーダーが照射できない!!>

俺たちは戦場を飛んでいる。
今までにない、緊張感。


≪交戦を許可する≫


操縦桿を握りなおした。
心臓がバクバクとなっている。

『ブレイズ、私が後ろを守る。いいわね?』
「え、俺は…」

俺に編隊の指揮なんて勤まるだろうか。
サンダーヘッドの言う通り、ナガセが適任だと俺は思う。

『もう、二度と一番機を墜とさせたくないの。やらせて。』

ナガセの必死な声。



「…わかった。」
『ありがとう、ブレイズ』

俺は編隊の先頭にたった。
一か八かだ。
隊長が戻るまでだ。大丈夫。やれるさ。

自分に言い聞かせ、スロットルを倒した。







港の全体が見えてきた。
あちこちで炎が上がり、煙を噴いている。

「…ひでぇ。」
『なんだ、この損害…俺様の想像力を上回ってやがる』



<総員!これは演習ではない、繰り返す!!これは…>
<見りゃわかる!馬鹿野郎!!!>

<ケストレルを守れ!>

下は大いに混乱しているようだ。
宣戦布告と同時に攻撃されたのだ。
さっきまではいつもと変わらない日だったってのに…。

<こちら空母ケストレル、港口へ向かう。>

軍港を見渡す。
海には軍艦が入り混じり、空には戦闘機が飛び交っている。

『こちらエッジ、ブレイズ空母ケストレルを確認できますか?』

やっとケストレルを見つけた。
港を出ようとしている。

「見つけた、そっちは?」
『こちらからも捕捉できました。まだ大丈夫のよう。』

だが、油断は禁物だ。
10時の方向から敵機が近づいてくるのをレーダーがとらえた。

「エッジ、チョッパー、10時方向から敵機。迎え撃つぞ!」
『こちらチョッパー。了解、隊長!!』
『エッジ了解。』

スロットルを倒す。
相手は2機だ。
真っ直ぐに対峙する一機に狙いを定める。
やっと肉眼で見えた一つの点。
どんどんと大きく見えてくる点はやがて戦闘機の形へと姿を変える。
加速はやめない。
操縦桿を握りしめ、好機を狙う。
ロックオンしたと同時に此方も警報機がなった。

(今だ!)

ミサイルを放つ。
それと同時に操縦桿を少し引いて機体を上昇させる。
爆発音。

もう一機もすでにレーダーから消えている。

<ケストレル出航完了!良い旅を!!>
<上空の味方戦闘機!ケストレルを頼む!!>

下を見ればケストレルが微かに動き始めていた。

『こちら、ソーズマン。俺たちの艦だ、今向かう!』

さっきの戦闘機乗りの声だ。
ケストレルはあちらに任せてよさそうだな。

レーダーを確認し、敵機の位置を確かめる。

≪駄目だ!こちらサンダーヘッド。空中管制指揮官だ!≫

不意にサンダーヘッドの声が入る。
俺はナガセたちに指示を送りながらそれを聞いていた。

≪ソーズマンは東センターに留まれ。持ち場を守り戦闘を続行せよ≫

『あれは、俺の母艦だ!!』

ソーズマンの怒りの声。
耳が痛い。
喧嘩なら地上でやってくれと心の中で叫ぶ。

≪ウォードック。≫

「こちらブレイズ。何だ。」

サンダーヘッドの指示が出る前に一機機関砲で落とした。
次の敵を定める。

≪ケストレルの直衛につけ≫

『石頭野郎め!!!』

俺は眉を顰める。

「いいのか?ソーズマンは不服なようだが?」

サンダーヘッドの指示が出たとたん吐いた愚痴はもちろん俺にも届いている。
まぁ、気持はわからんでもない。
どちらかといえば、向こうが適任と思われる。

『こうなれば、何も言えん!ウォードック、ケストレルを頼む!!』
「…わかった。」

≪こちらサンダーヘッド ウォードックへ。ケストレルを守れ≫

「了解。サンダーヘッド。ケストレルの援護に就く」

≪ケストレルから目を離すな≫

「こちらブレイズ。エッジ、チョッパー ケストレルの援護だ。」
『『了解!』』

レーダーを確認する。
敵機が四方八方からこちらに向かっている。
ケストレルに目を落とす。
まだ湾港までは3マイル以上はある。

「エッジ、チョッパー。散開し、自由先頭に入れ。
 ケストレルには近づかせるな。」
『オーケイ、自由にやらせてもらうぜ!』

チョッパー、ナガセがそれぞれ敵機に向かうのをレーダーで確認する。
その時、背後から閃光。
後ろを見れば敵機が一匹。
俺は盛大に舌を打った。

「俺の、後ろに立つな!!」

スッロトルを引いて、スピードを落とす。
そして右方向に操縦桿を一杯に引いた。
空と海が反転する。
そして、視界の脇では敵機が俺の脇をすり抜けていった。
スロットルを戻し、体制を整える。
敵機の背後につけた。

「喰らえ!」

機関砲の安全装置を外し、放つ。
敵機から煙が噴き出した。
操縦桿を引いて一気に上昇する。

ケストレルを確認。
まだ生きてる。

<3時方向敵機!>
<無線が錯綜している、いったい誰から見て3時方向なんだ!!!>

ずいぶんあたりも混乱しているようだ。
そんなこともお構いなしに敵機の攻撃は激しさを増してくる。

狙った敵機にミサイルを放つ。
しかし、軌道は大きく外れた。

「ちくしょう!」

スロットルを倒し、機関砲を放つ。
爆発音。

油圧、燃料を確認。
まだまだいける。
レーダーから更に敵の一波。
海の向こうからだ。
操縦桿を前に倒し、低空を飛ぶ。
海が近い。

目の前には大きな橋が見えた。
しかし、敵機はまだ見えない。
スロットルは前に倒したまま、高度を保つ。
一気に橋の下を潜り抜けた。

<戦闘機が橋の下を潜り抜けたぞ!!?>

驚きのような歓声のような声。

「見えた!!」

敵機がようやく見えた。
遥か上に空2機。
先頭にいる機体に狙いを定め、操縦桿を引いて急上昇。
重い加速度。歯を食い縛んだ。
機関砲を構える。
下から突き刺すように機関砲を放った。
機体を破る金属音。

すれ違ってからやっと爆発音が聞こえる。
すぐさまもう一機と対峙する。
突然の俺の奇襲に驚いたのか、
未だまっすぐに飛び続けている機体の後ろに食らいついた。

機関砲を放てば、逃げるように急降下した。

「逃がすか!」

操縦桿を前に倒す。
距離が離れる前にミサイルを放った。
爆発音。

「こちらブレイズ。チョッパー、エッジ大丈夫か!」
『こちらチョッパー、なんとか生きてらぁ!』
『こっちも大丈夫よ。』

ケストレルまで戻り確認する。
湾口あと少し…。

不意に、何かが目に入った。
波間に、何かが浮いているように見えた。
自然に、それが何んだと凝視する。



目が、合った気がした。
とたんに嫌な汗と吐き気が襲う。

「っ!」

操縦桿を握る手が震えているのがわかった。
波と波の間に、それは浮かんでいた。

『あれは…人?』

ナガセの台詞に自分の見たものが間違いではないことがわかった。




海には何人もの人の死体が浮いていた。



戻る