機体にエンジンを入れ、ゆっくりと前進させる。

ドクドクと心臓がうるさい。
今にもはち切れるのではないかというぐらい、鼓動をしているのがわかる。


震える手をごまかすように操縦桿を強く握った。






『そこの戦闘機。応答せよ!!』


ティルさんの声が聞こえる。


「ぐ、グリムですっ。僕も応戦します!!」


震える声に自分でも驚いた。

僕はいま、戦場に立っているのだ。



死ぬかもしれない。



そう思い、怖くなる。




『お前にゃ無理だ!補習教育が済んでねぇ。他の奴らは?』

チョッパー少尉の声だ。

「姿も見えません。」

『もう間に合わないわ。グリム、気をつけて。護ってあげる。』

「やってみます。」


無線でチョッパー少尉とティルさんのやり取りを聞きながら、機体のチェックをする。


心臓はいまだに煩い。

視界の端に救急隊たちが見えた。



大丈夫。大丈夫。




何度も同じ言葉を反芻させる。



「エンジン音、良好…整備兵に感謝。」



大丈夫。大丈夫。


何とかなる。




「燃料チェック。これだけあればなんとかなる。」


頭上を機体が通った。


ビクリと肩が震える。



ふと、兄貴のことが脳裏に過った。

戦場に行くとこの間の手紙で言っていた兄貴は無事なんだろうか…。



ゴクリと、生唾を飲む。




「こちら、グリム。これより離陸します。上から確認できますか?」


東の空が明るんできた。
もうすぐ夜が明ける。



『こちらブレイズ。よく見える。』

「了解。少し安心しました。」

『グリム、いいか。いつもどおりに離陸しろ。上は気にするな。』

「はいっ!!」


『良い返事だ。大丈夫。俺たちが護ってやる。』




不思議と、胸の鼓動は収まっていた。


「離陸開始位置に到着。エンジン最大出力!」


スロットルを一機に倒した。

背後から戻れという叫び声が聞こえる。


体に感じる加速度。

操縦桿を引いて、機体を地上に離す。



『上がれ上がれ!もっとだ!!』



高度を確認。


「上がりました!!!」


一機にわき起こる歓声。


『喜んでる暇はないぞ!ここは戦場だ!!』


ティルさんが叫ぶ。


『グリム!こっちへ来い!俺の後ろにつけ。』

チョッパー少尉の指示通り、後ろにつく。


「こちら、グリム一等空士、コールサインは「アーチャー」。
 管制塔および全機へ連絡。本機はこれよりウォードック隊に加わります!」

< こちら管制塔、了解。ブレイズ、彼を頼んだ >

『わかってる。一緒に地上に戻るぞ。』

「はいっ!!」



『こちらウォードック・リーダー。サンド島へ、燃料がない。着陸許可を求める。』

< 無理です、フォード中佐!空襲中なんだ!! >

2時の方向に一機の味方機が見えた。


『空中の味方機、本体の着陸を援護せよ。』

『阿呆がっ!!』

『ダヴェンポート少尉か?』

『そうであります。』


明らかに嫌味を含めた返答。

フォード中佐の機体よりももっと向こう、何かが飛んでいる。


『着陸後に譴責して…。』


爆発音とともに跡形もなくなった機体。

目が離せなかった。


敵戦闘機があざ笑うかのように飛んでいる。


『フォード中佐っ!!応答願います!!中佐!!』


炎を吐きながら機体は海に消えた。


そこから目が離せなかった。



初めてみる、死。


< こちら管制塔。増援を確認。爆撃機だ。急ぎ向かい撃墜せよ。 >


レーダーを見れば、敵機影がいくつも映っている。


『こちらブレイズ。了解した。』


恐怖。

それが、襲い掛かってくる。



『グリム。』


ティルさんの声にはっと我にかえる。


『落ち着いて、前を見ろ。いいか?教科書通りでいい。』

「了解しました。」


自分を落ち着かせるよう、深い息を吐いて操縦桿を握りなおした。


『エッジ、グリムの背中を守れ。』

『了解、ブレイズ。グリム、背中は任せて。前方に集中して。』

『とにかく俺についてこい!』

「はいっ!!」


チョッパー少尉の後をついて行くように飛ぶ。

下を見れば、サンド島基地のあちこちで火の手が上がっている。


(…ひどい。)


下にいて、気付かなかった。
こんなありさまになっているなんて…。


『こちらブレイズ。サンド島につく前に爆撃機を叩く。』

『了解。』

『グリム、組む相手が個性派の俺で悪いな。ついてこれるか?』

「はい!」


目の前に爆撃機が見えた。

機銃のロックを外す。


『お前らは爆撃機を叩け。俺は護衛機をやる。』


そう言って、ティルさんは機体を上昇させた。


『グリム、ブービーのいう通りだ。トロイ爆撃機を墜とすぞ。』


チョッパー少尉の機体について行くように旋回させて爆撃機の背後につく。

操縦桿を握りなおす。

縮まる距離。


『標準を合わせろ。俺の合図で機関砲を放て。』

「了解。」


爆撃機の機体がはっきり見える。

チョッパー少尉の合図を待つ。


『撃て!!』


機関砲を放った。


どぉんという音と共に煙をあげ、高度を落としていく。


『ナイスキル!!』


チョッパー少尉の声。


『その調子よ。悪くない。』


ナガセ少尉が言った。


ほっと息を吐く。



遠くで爆音。

ティルさんだろうか。


レーダーを確認すれば、いつの間にか護衛機は映っていない。


『一気に畳み掛けるぞ。』


ティルさんが言った。

僕の脇を通り、爆撃機を一機墜とす。


「すごい。」


思わず言った。

無駄のない飛行。

あっという間に残りの爆撃機を墜とした。






< こちら管制塔。爆撃機全滅を確認した。みんな、よく守ってくれた! >









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