2010/09/27 19:15   サンド島






部屋でじっとしていられず、俺は隊舎の外に出た。

生ぬるい風が吹き抜ける。
その風に乗ってきた潮の香りがサンド島を包んでいた。

空には星が輝き、月が浮かんでいる。





はぁっと大きく息を吐いた。
未だ、隊長の安否が確認されていない。

明日からは本土の中佐がやってきて、隊長の穴を埋める。
不服だ。
しかし、ひよっこの俺たちの意見を聞いてはくれない。


「今日は、大活躍だったようだね。」
「おやじさん」

おやじさんは人当たりのいい笑みで俺に歩み寄った。

「大丈夫、バートレット大尉は無事だ。」

俺の顔にでも書いてあったかのおようにおやじさんは言った。
なんとなく、安心できた。

「あやつはしぶとい、ひょっこり現れるさ。」
「それで、厭味を言うんすよね。」

はっはとおやじさんは盛大に笑った。
違いないと。

夜のサンド島は静かだ。
耳を澄ませば波音が聞こえる。

戦争が起こっているなんて、信じられないくらい平穏な空気だ。

「戦争…なんですよね。」
「…。」
「自覚ないんすよね…こうしていつもと変わらない夜だし。」

ははっと笑う。

ふいに、今日の出来事を思い出した。

「俺、初めてあんなに死体みました。」

海に浮かんでいた人。
思い出してぶるりと身の毛がよだつ。

「15年前の戦争なんて、おれ餓鬼だったしあんま覚えてないんだよね。」
「…凄まじいものだったよ」

おやじさんは15年前の戦争を戦闘機乗りとして参加していた。
そう聞いている。


おれの親父のように。


「おやじさん!!!」

すこし、高い声がおやじさんを呼んだ。
声のする方を見ればまだ若い青年がこちらに走ってくる。
俺よりも少し明るい茶色の髪を短く切った青年は息を切らしてやってきた。

「やぁ、グリム。調子はどうだ?」

グリムよばれたせい人はまだあどけなさが残った顔で笑う。
二言三言言葉を交わした後、グリムは慌てて俺に敬礼した。
今、俺の存在に気づいたようだ。

「す、すみません!俺は、ハンス・グリムといいます。」
「そんな固くならなくていい。俺はティデュール・ヴェネス。ティルでいい」

そう言って右手を差し出せばグリムは俺の手をとった。

「もしかして、ウォードック隊ですか?」
「あぁ、まだまだひよっ子だけどな…。」

隊に入ったのもつい最近だ。
誇れるような飛行経験はなし、技量もない。

「そんな、ティルさんの飛行はすごいって聞きます。おやじさんからも…」
「いや、大したもんでもないよ。」

機体のまなざしの目を向けられ、こそばゆい。

「今度、色々お話を聞かせて下さい。」
「俺の話でよかったら…。」

不意に、波の音と音の合間に何かが聞こえた。
すぐに、波の音にかき消され消えたが確かにエンジン音が聞こえた。
滑走路はそう遠くないが今は戦闘機は上がっていない。
しかし、聞こえたのは確かに戦闘機のエンジン音だ。

夜の空を見上げた俺を、おやじさんとグリムは訝しげに見る。

「あの…どう…」

口の前に人差し指を立て静かにするようにジェスチャーする。
グリムは口を噤んだ。

耳を澄ませる。
2人は目を合わせた。

まただ。
今度は確かに聞こえた。
おあじさんも気づいた様子で俺の顔を見た。

「グリム、訓練生はこの時間、訓練中か?」
「いえ、こないだの宣戦布告から訓練生は飛んでないはずです。今の時間も…。」

途端、島中の警報が鳴り響いた。

「なっ、なに…。」

≪ 警報!警報!! 敵機がこちらに向かっている 総員、配置につけ!! ≫

「く、空襲?」

俺は舌を打った。
ここは最前線基地だ、狙われるとは思ってたが、こんなに早くとは…っ

「ティル。機を準備する。君も早く。」

俺は親父さんの言葉に頷いた。

「グリム。手伝ってくれ!」
「はいっ!」

おやじさんとグリムは格納庫へ。
俺は隊舎へと全速力で走って行った。





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