翌日、秋と夏樹のクラスは一限目が『音楽』で移動教室だ。

「何で、音楽室はこんなに遠いんだ?」


二人はだらだらと廊下を歩き、離棟にある音楽室へ向かっていた。
向かっているのは第2音楽室。
第1音楽室はすぐ近くにあるのに…。


「そんなだらだら歩いてたら、授業に遅れるぞ。」


背後から男の声がかかった。
振り返れば、呆れたように男の教師が立っている。
背が高く、短い髪の教師は一見すれば体育会系だが、手には同じ音楽の教科書がある。


「ん?一年か、迷った?」
「いえ、第2音楽室に…。」
「第2?じゃぁ、私の授業だな。」


そう言ってニヤリと教師は笑った。


「木村だ。よろしく。」


そう、やり取りしているうちに第2音楽室へ着き、木村が先に教室へ入る。
すでにクラスメイトが教室にいて、木村が入ると同時に教室内が少し静かになる。
教壇の代りにあるグランドピアノが最初に目に入り、次に教室の隅にあるものが秋の目に留まった。


「あ…。」


ふらり、と秋は引き寄せられるように数歩近づく。
エレキギターにべース、ドラム。
所謂バンドセットが教室の隅に無造作に置かれていた。
同じくそれに気づいた木村が呆れる様に溜息を吐いた。


「ったく、あいつら…ちゃんと片さなかったな…?」
「あいつら?」
「これを使ってるお前らの先輩だよ。」


秋は改めてそれらを眺める。


―どんな、人たちが使っているんだろう…、どんな音が出るんだろう…。


ふつふつと秋の中に何かが湧き出る。


「興味があるのか?」
「まぁ…。」
「だったら、今日の放課後ここにおいで、たぶん活動してると思うぞ?」


木村の言葉に秋が即座に頷いた。





昼休み。昨日と同じように秋たちは屋上に集まっていた。


「野球にサッカー、バスケ…。」


昼ご飯を広げてるも、手をつけず、冬流は一枚の紙に向かってうんうんとうなっている。


「何見てんだ?」


夏樹に代わりに、秋がその紙を覗き込む。
紙の一番上には手書きで『部活一覧表』と書かれている。


「どっか、入るのか?」
「どうすっかなぁ…。」


再び唸る冬流。


「今日から部活見学始まるんだったな…。」


そんな、冬流を尻目に春哉は思い出したように言った。
昨日と同じように1L牛乳を片手に持ってだ。


「春哉は何か入るか?」
「考え中。」
「秋は?」


夏樹の問いに秋は春哉と同じ答えを出した。


「俺もだ。」
「中学ん時なにやってたん?」


冬流は紙との睨めっこを諦めた様で、そんな問いを出した。


「バスケ。」


その単語が出たのは春哉の口だ。
夏樹は意外そうに眼を丸め、冬流はプッと吹き出す。
秋は興味なさそうに、3つ目の握り飯を食べ終え、4つ目に手を出した。


「お前が、バスケ?」


腹を抱え笑う冬流。
理由はもちろん春哉の背だ。


「言っとくけどな、3年間レギュラーだったんだかんな。んでもって県大会にも行った。」
「それはすごいな。」


威風堂々と言う春哉に夏樹は感心した。


「春哉は…運動神経いいよね。」


秋の科白に3人は首をかしげた。
昨日出会ったばかりなのにどうしてそんなことがわかるのだろうか?
そんな疑問が3人の中にあった。
それを知ってからか、秋は淡々と続けた。


「今日、外で体育してた時、見てた。」
「あー、3限ときなぁ。サッカーしてた。」


それで3人は合点がいったようだ。


「じゃ、高校もバスケやれば?」
「ヤダ。」


即答する春哉に、冬流は地雷を踏んだかと不安になる。
しかし、続いた言葉はいかにも意外で、


「バスケは飽きた。」


だそうだ。


「そ、そうか…。」
「なぁ、みんなで一緒に部活見学いかね?」


冬流の提案に2人は乗り気のようだ。


「いいけど、どこ行くんだよ。」
「んー、行きたいとこ」
「どこ?」
「さぁ?」
「さぁってな、無計画かよ。」
「俺、行きたいとこある。」

どうどうめぐりな会話の流れを止めたのは意外にも6つ目の握り飯を食べ終えた秋だ。


「秋、どこ行きたいんだ?」







「―第2音楽室…。」