地上に足を着いた途端どっと疲れがきた。
地面にまっすぐ立ってられないのに、次々といろんな人から歓迎された。
「グリム!よくやったなぁ!!!!」
「やるじゃないかっ!」
「無茶しやがって!」
降りてきた、チョッパー中尉も参戦してもみくちゃにされる。
頭を乱暴に撫でられたり、腹を殴られたり…。
「グリムっ!!!」
名前を呼ばれて、見れば人ごみを割るようにティルさんが来た。
後ろにはナガセ少尉。
「てぃ、ティルさん!」
慌ててふらふらな体を立たせる。
目の前に立ったティルさんを見上げる。
パンという音。
周りがやけに静かになり、不思議に思った。
暫くして、左頬に痛みが走る。
「―…っ。」
じりじりと左頬が熱くなる。
殴られた。
やっと理解したころにはチョッパー少尉が抗議の声を上げていた。
「おいおいおい、ティル!何してんだ!?」
「お前は黙ってろ…。」
声からして、ティルさんが怒っていることがわかった。
「グリム、何であんなことした。お前は訓練生なんだぞ?」
「…。」
「だからっていきなり殴るなんざ…。」
ティルさんはチョッパー少尉を睨む。
「ブレイズ、確かに殴ることはないと思うわ。」
ナガセ少尉が言う。
「そうだい。無事だったんだし…。」
「無事だったからよかった…確かにそうだが、もしものこともあるんだぞ?」
ティルさんは続ける。
「戦争なんだ…。わかるか?」
「…はい。」
痛みのせいなのか、目尻に涙が浮かぶ。
でも、左頬よりも胸がじくじくと痛んだ。
ティルさんはそんな僕に何も言わず、背を向けて去って行ってしまった。
殴られた左頬は見事に赤く腫れあがった。
痛い。尋常じゃないぐらいに。
それを見たおやじさんは苦笑いを浮かべた。
「怒られちゃいました…。」
格納庫の前のベンチに座り、嵐が去ったサンド島を見た。
あちこちがぐちゃぐちゃで、焦げ臭い。
まだ煙が上がっているとこもある。
「まぁ、怒りたい気持ちもわかるがね。」
そう言ったおやじさんを恐る恐る見る。
しかし、いつも通りの優しい笑顔を浮かべていて、ほっとした。
あぁ、帰って来れたんだと…自覚した。
「正直、怖かったです。」
今でも震えは治まっていない。
目の前で上がる炎。
体を震わす爆音。
墜ちる機体。
次は僕の番なんだと、死を覚悟した。
「誰だって怖いさ。私も、ティルも…。」
「…。」
滑走路を掃除する人たちが見える。
時折、僕を冷やかしに来る整備兵たち。
―僕は…。
「おやじさん…僕は。」
疑問に思ったことがあった。
僕は、
「僕は、ここを守れたんでしょうか?」
機体に乗る前、ここを守りたいと思った。
ココにいるみんなを。
だから、あの時操縦桿を握ったんだ。
「グリム。」
急にティルさんの声が聞こえて吃驚した。
大げさなほど、肩が震える。
見れば、案の定ティルさんの姿を確認する前に、僕は立ち上がって深く頭を下げた。
「ご、ごめんなさいっ!!あんな無茶して…。」
「…いや、謝るのは俺のほうだ。」
投げかけられたのは意外な言葉で、僕はティルさんを見上げる。
「あ、の…ティルさん?」
「悪かった…殴ったりして。」
「その左頬…。」
ティルさんの左頬は腫れていた。
しかも、僕のよりひどい腫れ様で痛々しい。
「どうしたんだい?それは。」
おやじさんも驚いたようで、目をまん丸にさせる。
ティルさんは苦笑いを浮かべた。
「ナガセに…殴られました。グリムを殴ったから。しかもグーで思いっきり。」
「だ、大丈夫ですか?」
「…痛い。」
カタカタと肩を震わせるティルさんにこれ以上は何も聞けなかった。
「グリム。ほんとにごめんな。」
「い、いえっ!僕の方こそ。」
「怖かったよな。」
「はい。でも…ティルさんたちがいたから…。」
そうだ、僕はティルさんたちがいたから生き残れたんだ。
ティルさんたちがいたから、飛べた。
「ありがとうございました。」
深々と頭を下げる。
「―ハンス・グリム一等空士。」
「は、はい!!」
突然、改めてそう呼ばれ、慌てて頭をあげ、体をぴんと伸ばす。
ティルさんは僕をまっすぐ見る。
「お前を、4番機としてオーシア国防空軍第108戦術戦闘飛行隊ウォードックに所属してもらう。」
「―え?」
「歓迎するよ。グリム。お前は俺たちの隊に入るんだ。」
「あ、ありがとうございます!!ティルさん!!」
「隊長。そう、呼べ。」
「はいっ隊長!!」
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